
(まえがきより)
新聞報道によれば、地球温暖化問題に関するIPCCの第四次報告書の骨子は次のようである。
「現在の温暖化は人為的なものであることが確定した。今世紀末には最大六・四度も気温が上昇する可能性がある。この二~三十年の世界の対応が重要であり、CO2削減に今後三百兆円くらい必要である。」
百年に一度と言われる世界的な金融危機に襲われ苦しんでいる人類にとって、三百兆円の投資は重い負担である。CO2による人為的温暖化論がもし間違っていたら、人類は病気・貧困・飢餓・水不足との戦いに必要な三百兆円もの資金をドブに捨てることになる。また温暖化対策として推進されているバイオ燃料の製造が、トウモロコシなどの食料品の価格を高騰させ、食糧危機の一因となっているという指摘もある。
著者は、化石燃料ベースの省エネルギー技術である燃料電池の基幹部品であるプロトン伝導膜の研究者であるが、四十年ほど前、大手化学会社で化学プロセスやイオン交換膜のコンピュータシミュレーションを五年間ほど経験した。IPCCの予測はスーパーコンピュータを用いた温暖化シミュレーションに基づいているので、地球温暖化論に興味を持ち、関連論文を集めて読んでみた。その結果、コンピュータモデルによる計算は、雲のパラメタ化に結果が強く依存するので信用出来ないと思った。
そこで、モデル計算に依存しない理論的基礎について詳細に調べたところ、数学的誤りがあると思ったので、英国の学術雑誌『Energy&Environment』に論文を昨年八月に投稿し、このほど受理された。公開は今年の十月頃になりそうなので、概要を本書の第三章で解説するが、CO2倍増時の地表気温上昇(気候感度という)は、IPCCの平均三度に対して〇・五~〇・七五度となった。もしも著者の理論計算が正しければ、IPCCは四~六倍もCO2の脅威を過大評価していることになる。
温暖化シミュレーションについて、NCAR(アメリカ大気研究センター)の上級研究員で前役員のJ・フイラー氏は、「気候モデルの最大の問題は、自分達にとって望ましい結果が出力されるように、モデルを改変し使用する人々によって構築されていることだ」と批判している。
また、米国公共政策研究所の物理学者のG・E・マアシュ氏は次のように述べている。
気候モデルの予測に基づいてIPCCは、「CO2濃度が倍増した時は、水蒸気フイードバック込みで一・九度くらい地表温度が上昇する」と見積もっている。しかし雲に関する不確実性は非常に大きいので、この数値は無意味である。地球の長い歴史において、氷河期から間氷期への移行は大気中のCO2濃度の増加によるものではないことが記録から明らかである。むしろ移行期から四〇〇~一〇〇〇年後にCO2濃度が増加しており、温度の上がった海からCO2が放出されたことと一致する。したがって、CO2により気候が変化するということがわかったとは言えない。
現在の気候モデルには上述したような不確実性があるので、その予測は公共政策決定の十分な基礎になることは出来ない。ではどうすべきか。多分最も重要なアクションは、気候変動問題を政治課題から外すことであろう。そのうちに、地球の気候の理解が進み、政策決定に有意義な寄与が可能になるかも知れない。
さらに、雲物理学の専門家であるカリフォルニア大学スクリップス海洋研究所のR・C・J・サマービル氏は、「気候モデル改良上の問題点と見通しー雲の話」と題したウェブ論文の中で、同様な意見を次のように述べている。
・未来を予測する上で、雲が唯一つの不確実性の原因と考えられているが、その理由は雲と太陽放射および地球放射との相互作用に計算結果が非常に敏感に依存するからである。モデル開発者(以下モデラーと呼ぶ)が確からしいと信じる様々なパラメタ化により、大きく異なる結果が得られるが、どれがより現実的かを判断する基準は何もない。
・この分野の問題は、モデラーが信じる雲放射のパラメタ化は数多く試行されてきたが、それを観測で実験的に証明することが殆ど行われていない点にある。雲の放射特性、雲の生成過程、大気と海の交換、大地表面過程、雪氷の物理、水循環要素、エアロゾルなどに関して、実験とモデル計算により物理過程を正確に把握しない限り、気候モデルのシミュレーション結果は不確実性から逃れることが出来ず、社会や政策の役に立たないであろう。
サイエンス誌(5)やネイチュアー誌(6)によれば、温暖化シミュレーションで行われていることは、共同目標値である「CO2倍増時に気温上昇は一・五~四・五度、平均値は三度」という結果が得られるように、モデラーたちが数多くのパラメタ(係数)を調節(チューニング)しているに過ぎないように著者には思われる。
この共同目標値は、一九七九年夏の全米科学アカデミーの席で、プリンストン大学GFDL(地球流体力学研究所)のモデラー真鍋淑郎氏が「CO2倍増時に気温は二度上昇」と証言したのに対し、NASAのGISS(ゴダード宇宙研究所)のモデラーであるJ・ハンセン氏が「四度上昇」と証言した数値に、議長のJ・チャーニー氏が〇・五度の調整代を加減して、人為的に決められたものである(5)。
何故ハンセン氏が四度と証言できたかについては、誰にも何が真実かわからない雲のパラメタ化に自分たちとは異なった工夫をしたからだと真鍋氏は述べている。同氏によると、真鍋氏らは「CO2変動に伴う雲の変化はない」と仮定したが、ハンセン氏らは「雲の分布を相対湿度の簡単な関数」で表すパラメタ化をおこなったそうである。
ところで、真鍋氏とハンセン氏の数値は、一次元の放射対流平衡モデルを基礎とし、それを三次元に拡張して得られたものであるが、本書の第1章、第2章で述べるように、その正当性については深刻な理論的問題がある。
日夜、赤外吸収スペクトルや、熱重量分析のチャートを見ながら自然と格闘している正統的な科学者の立場からは、温暖化論に対して次のような感想を抱かざるを得ない。
(一)自然科学は、「実験・観測データの集積と解析―物理メカニズムの解明―数式モデルによる予測」という三段階を踏んで発展してきた。ところが地球温暖化論は肝心な最初の二段階を十分行わないまま、第三段階のコンピュータシミュレーションに入っているのではないか。著者のイオン交換膜のコンピュータシミュレーションにおいては、二つの経験的パラメタを使用したが、どちらも実験的事実を踏まえ、物理的意味が明確なものになるように工夫した。
(二)サイエンス誌(5)やネイチュアー誌(6)によると、真偽の基準を「仲間内の合意」に求めているようだが、ガリレオの地動説からわかるように、自然とのデータの一致が唯一の基準である。科学は多数決で真偽が決まるのではなく、一編の論文、1冊の書物で白黒がひっくり返るオセロゲームの世界である。
プリンストン大学の真鍋氏が、一時指導していた地球シミュレータから米国へ戻るのに際して、二〇〇一年十月に開かれた「さよなら講演」の模様がネット上に公開されており、人為的温暖化論の本質を知る上で、極めて重要な証言を知ることができる。
人為的温暖化論は、一九六四/六七年に発表された真鍋ペア論文(10) 、(11)の上に築かれており、その中に理論的欠陥が見つかれば、すべてが崩壊する運命にある。コンピュータシミュレーションによる地球温暖化論の幕を開けた真鍋氏は、「CO2による温室効果を発見した」とさえ称えられている。実際、一九七九年夏の全米科学アカデミーで共同目標値が決められて以来、数十(数百?)の気候モデルが「気候感度は一・五~四・五度、平均三度」という大同小異の計算結果を、三〇年間も吐き出し続けているのである。
もしも、様々な仮定に立脚しているコンピュータシミュレーションの結果を、実測値と厳密に比較検証する作業を行わなければ、それは「シミュレーションごっこ」に堕してしまうであろう。
トリウム熔融塩国際フォーラム代表の古川和男氏には、第九章「トリウム熔融塩核エネルギー協働システム」を特別寄稿して頂き感謝致します。
神戸大学名誉教授の石橋克彦氏には、二〇〇五年二月二三日、衆議院予算委員会公聴会において公述された『迫り来る大地震活動期は未曾有の国難である』の内容を要約して掲載することを許可して頂き、また原稿の添削を行って頂いたことに感謝致します。


