
われわれ人類は、地球上に生きる生物の一員として環境と共に生きざるを得ない。人が他の生物と共存して豊かな生活を送るためには、個人の努力以前に、生活している環境が健全で安全で魅力的でなければならない。われわれを取り巻く環境が崩壊すれば、まず人格が崩壊し、やがて人も地球上に存在できなくなる。そうなる前にわれわれにもできることがあるはずだ。
エコロジカル・ランドスケープというデザイン手法がある。これは、ひとりの技術者がエコシステムとエンジニアリングとデザインを同次元で考えることで初めて解決できる総合的な空間のデザイン手法のひとつだ。デザイン対象は、外部空間そのものだ。
エコシステムとは、健全な物質循環の相互関係のことをいう。自然が豊かな地域でも、装置化された都市空間でも、水や生き物を介在した物質循環や季節の変化が存在する。地域の環境を支えているエコシステムの仕組みを理解し、本来、地域があるべき姿を維持できるように人が手を加えるべきことに適切に対処すれば、自然が何万年もかけて創ってきたエコシステムを維持できる。逆に、ちょっとした自然への配慮が欠けると簡単にエコシステムを壊してしまう。すべての開発が自然を壊しているのではなく、エコシステムの存続や生物多様性を意識していない開発が自然を壊している。エコロジカル・ランドスケープは、開発を本来の環境に取り戻す機会でもあるととらえている。人が環境を利用している以上、環境に何も手をつけないでエコシステムを健全に維持することはできない。
エンジニアリングとは、人が自然環境を改変するときに、地域本来のエコシステムが機能するように手を加える技術のことであり、人の都合で地域のエコシステムに適合しない土地利用や構造物を無理やり地域に押し付けることではない。
デザインとは、健全なエコシステムと安全性の高いエンジニアリングをふまえて、空間を魅力的に演出することであり、作家として作品を作ることではない。本来そこにあるべき情景を現実の空間にすることだ。
エコロジカル・ランドスケープでは、常に地域の環境全体の中で目指すべき姿を考えて設計する。全体を視野に入れつつ設計対象を考える。全体を視野に入れなければ、現状の建築・土木・造園と同じ分業の設計になってしまう。
エコロジカル・ランドスケープは、けっしてパーツのデザインをしない。その環境でしか成しえない空間の創出を追求する。外部空間のオーダーメイドを行う。
パートナーは自然環境だ。
広域な空間をデザインするには、地域が目指す風景への哲学が必要だ。これから国土や風景づくりに携わる志を持つ人にとって、本書が一助となれば幸いです


